『強欲な羊』(美輪和音)— やさしさの顔をした“支配”、どこで気づく?

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今日は、Kindle Unlimitedで今読める連作短編集。心理の刺さり方で読む一冊。

目次

あらすじ

強欲な羊 (創元推理文庫)

Kindle Unlimited
対象(2025/10時点)

美しい姉妹の家に“わたくし”が同居。姉は外向的、妹は繊細。小さな嫌がらせが日常に混ざり、空気が少しずつずれる。やがて妹が姉を殺害した、という形だけが残り、最後に語り手の立ち位置が露わになる――表題作「強欲な羊」。
続く「背徳の羊」では、コンビニ経営の女性が暴力の影と折り合いをつけようと足掻く。「眠れぬ夜の羊」は孤立への恐れが監視を生み、「ストックホルムの羊」は王子のもとで暮らす女たちの視点から支配と依存の揺れを切り取る。締めの「生贄の羊」は、誰かの不幸を差し出して均衡を保つ関係の脆さを突く。
5編をつなぐのは、欲と嫉妬、そして支配。やさしい言葉に包まれた意図が、読み進めるほど輪郭を持つ。

こんな人におすすめ:

  • 後味“甘くない”連作短編を心理の手触りで味わいたい
  • 支配/依存/嫉妬のラインを言葉の温度で読み取りたい
  • 一人称のミスリードにゾクッとしたい

読みどころ

  • “一人称”の信頼性をどう測るか
    “見たこと”と“思ったこと”の線引きに注目。語りの温度差を拾うだけで、終盤の反転がすっと腑に落ちる。
  • 反復する合図
    羊/贈り物/代償といった語や小物が形を変えて現れる。各編で同じ“矢印”がどこに向くかを追うと、加害と被害の入れ替わりが見えてくる。
  • 表題作の配置
    1編目が“読み方の鍵”。ここで学んだ視点のズレが、残り4編で別の形に反射。単品でも効く/通し読みで倍効く設計。

感想

読んでいるあいだ、欲が少しずつ形を変えていく様子が怖くて、でも目を離せませんでした。誰かの「当たり前」や「ちょっとだけ」が、蓄積して別の景色に変わっていく。その過程がはっきり描かれているので、登場人物の判断がどこでズレたのか、自分の中でも何度も振り返ることになりました。

語りに引っ張られる感じが強くて、こちらの視線まで誘導されてしまうのが巧みでした。小さな違和感がいくつも残って、読み進めるほどに並べ替えたくなる。終盤で視界が切り替わると、それまでの言葉の選び方が別の意味を帯びて見えてきて、静かな納得が残ります。

読後は、派手なカタルシスよりも、判断の重さがじわっと効くタイプの余韻でした。誰かのための善意と自分のための打算、その境い目をもう一度確かめたくなる一冊です。

データ/読みやすさ

  • 形式:連作短編集(全5編)
  • 受賞:表題作=第7回ミステリーズ!新人賞
  • 読みやすさ:中(語りの“解釈”に気づくと快感が増す)

Kindle Unlimited対象について

紹介した作品は投稿日時点で読み放題対象ですが、対象作品は定期的に変更されます。ご利用前にAmazonの商品ページで最新の対象状況をご確認ください。また、読みたい作品があれば早めに読むか、ライブラリに追加しておくと安心です。

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