はじめに
新興宗教を背景にした毒殺事件の“なぜ”を追う社会派ミステリ。善悪の線がにわかに揺れ、読み手の判断も試される。
あらすじ
長野県松本市の山間に総本部を置く新興宗教団体「御魂の会」で、開祖生誕会の最中に信者7人が毒殺される。捜査一課の篠原汐里は、被害者の澤田親子の生活史を洗い直すが、家族の選択や金の流れ、集会での振る舞いなどに不可解な点が次々と浮かぶ。事件は信仰と生活、家族の欲と献身が交差する地点で膠着し、関係者の証言は“正しさ”の定義を食い違わせていく。なぜ7人は同じ場で、同じ方法で殺されなければならなかったのか——宗教と日常の接点をひとつずつ確かめながら、犯行の動機と選択の理由に迫る。
ここが推し
- 集団毒殺の“理由”が肝:手口の派手さより、なぜこの場・この方法かが最後に線でつながる。
- 家族×信仰のリアリティ:献金や役回りなど生活の細部が説得力の源になっている。
- 捜査線が“価値観”に触れる構図で、社会派とサスペンスのバランスが良い。
感想
読み進めるほど、「正しさ」を決める物差しが人によってこんなに違うのだと実感しました。教団の内側と外側、警察、報道、家族——それぞれの立場に“守りたいもの”があって、同じ出来事でも見え方が少しずつズレていきます。誰かの信念が別の誰かの痛みに変わる瞬間が丁寧に描かれていて、簡単に断じられない気持ちのままページをめくりました。
捜査の積み上げは地に足がついていて、証言や記録が一つつながるたびに印象が更新されていきます。後半の明かし方も、驚きで押し切るというより、これまで出てきた情報が自然に組み合わさっていくタイプで、納得が先に立ちました。大きな声よりも、小さな逡巡やためらいに重心があるので、人物の選択が心に残ります。
読み終えてから、自分がどの“正典”に寄ってものを見ているのかを少し点検したくなりました。信じたい筋道に乗っかっていないか、急いで結論に飛びついていないか。静かに振り返りを促してくれる一冊です。
こんな人におすすめ
- 宗教・コミュニティをリアルに描いたミステリが読みたい
- トリックより動機・背景(ホワイダニット)を重視する
- 家族の選択が事件に絡む物語に惹かれる
著者メモ
- 永山千紗
デビュー作:『ソウルハザード』(2021)
代表作:『ソウルハザード』『マインドエラー』『殺意の正典』。
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