遠坂八重さんの新刊『白色光の影を浚う』を読みました。
結論から言うと、不穏なミステリーが好きな人にも、人間ドラマの濃い作品が好きな人にも刺さる一冊でした。
「感動のミステリー」と聞いて少し身構えていたのですが、実際には、喪失の痛み・先の読めなさ・登場人物同士の温かさがしっかり残る作品です。
この記事では、遠坂八重『白色光の影を浚う』のあらすじと、ネタバレなしの感想を紹介します。
『白色光の影を浚う』の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 書名 | 白色光の影を浚う |
| 著者 | 遠坂八重 |
| 出版社 | 祥伝社 |
| ジャンル | ミステリー |
| ページ数 | 344ページ |
| 発売日 | 2026/5/9 |
| おすすめ度 | ★★★★★ |
この記事でわかること
- 『白色光の影を浚う』がどんな雰囲気のミステリーか
- 学内便利屋「たこ糸研究会」作品を未読でも読めるか
- 実際に読んで刺さったポイント
- どんな人におすすめか
『白色光の影を浚う』のあらすじ
「引きこもりの友人が、別人に入れ替わっている」
鎌倉の高校で学内便利屋をする滝蓮司と卯月麗一のもとに、奇妙な相談が持ち込まれる。依頼人によれば、長年引きこもっている幼馴染・新藤文乃の部屋から、先月を境に別人のような生活音や筆跡のメモが出されるようになったというのだ。
調査に乗り出す2人だったが、文乃が引きこもる原因となった「6年前の交通事故」を知り、麗一の態度が一変する。文乃は妹をその事故で亡くしており、事故には麗一の父親が関わっていた。
被害者の姉と、加害者の息子。事故に関わる人々の過去と現在が交わるとき、衝撃の真実が明らかになる。つらい記憶に向き合う痛みと、その先にある光を描いた感涙必至のミステリー。
感想|「感動ミステリー」だと思ったら、不穏さに引き込まれた
読み始めて20ページで心をつかまれた
「感動のミステリー」という帯文を見て、不穏な作品が好きな私は、正直少し身構えていました。
感動する温かい話なのかな。
不穏好きの自分の好みとは少し違うのかな。
そんな気持ちもありつつ、遠坂八重さんの新刊ということで読み始めたのですが、20ページほどで一気に心をつかまれました。
プロローグから、この物語の核になる出来事が描かれ、その後も居心地が悪いような不穏さが続きます。
「あれ、すごく好みだけど、泣けないかも…?」
そんなふうに少し混乱しながらも、気づけば夢中で読み進めていました。
現在と過去、3人の視点から真実に近づいていく
物語は、現在と過去を行き来しながら、3人の視点で進んでいきます。
過去の事故にまつわる会話や、それぞれの過去が少しずつ挟まってくることで、最初は見えなかった人物同士のつながりが浮かび上がっていきます。
何がどう絡んでいるのか、すぐにはわかりません。
それでも、少しずつ真実に近づいていく感じがあって、先が気になって読む手が止まりませんでした。
謎を追う面白さもありますが、この作品で特によかったのは、ひとりひとりの過去や心情、相手に向ける想いがしっかり伝わってくるところです。
真相を知りたい気持ちと同じくらい、「この人たちがどうなっていくのか」が気になって、気づけばそれぞれの人物に感情移入しながら読んでいました。
遠坂八重さんらしい会話と言葉選びが光る
遠坂八重作品を読んでいて好きだなと思うのが、会話文と言葉選びのうまさです。
クスッと笑えるやり取り。
人物の気持ちを一言で言い当てるようなセリフ。
喪失やしんどさを、高い解像度で描く文章。
今作でも、思わず付箋を貼りたくなる言葉がありました。
特に印象に残ったのは、大切な人を失ったあと、朝が来るたびにその不在を思い知らされる感覚です。
私自身、母を亡くしたあと、朝が来るたびに「ああ、もういないんだ」と感じていた時期がありました。
だから、その感覚があまりにもリアルで、しばらく言葉に詰まりました。
大切な人を失ったあとの苦しさって、ずっと泣いている時間だけじゃなくて、朝起きた瞬間や、何気ない日常の中で急に思い知らされるものなんですよね。
喪失や苦しみに対する描写の解像度が高く、だからこそ読んでいて苦しくなります。
でも、ただ苦しいだけではありません。
重い場面の中に、ふっと笑える会話が挟まることもあります。
泣きながら少し笑ってしまうような場面があって、その笑いが登場人物の救いにも見える。
この温度感の作り方が本当にうまいです。
シリーズ未読でも入りやすい、学内便利屋「たこ糸研究会」の空気感
今作は重い喪失や痛みを描く物語ですが、たこ糸研究会の空気感には、青春ミステリーらしい爽やかさもあります。
滝蓮司と卯月麗一、二人の掛け合いもよくて、重い場面の合間にふっと息ができるような心地よさがありました。
私は今作から読んでしまったのですが、読み終えたあと、ここからまだこの二人の物語を読めることに少しホッとしました。
『白色光の影を浚う』は、学内便利屋「たこ糸研究会」の滝蓮司と卯月麗一が登場する作品です。
物語自体は独立しているため、今作からでも問題なく楽しめます。
ただ、二人の関係性や空気感が気に入った方は、『ドールハウスの惨劇』から読むのもおすすめです。
先が読めそうで読めない、もうひとひねりの真相
ミステリーとしても、先の読めなさがしっかりあります。
読み進めていくうちに、少しずつ真相の輪郭が見えてくる。
「こういうことなのかな?」と思えるところまでは行くんです。
でも、そこで終わりません。
真相が見えてきて、納得して、少し油断したところで、さらにひとひねりある。
一瞬、意味がわからなくて、何度か読み返した場面もありました。
この、「わかりそうでわからない」「わかったと思ったら、もう一段階ある」感じがとてもよかったです。
『死んだら永遠に休めます』でも感じましたが、遠坂八重さんの作品は、真相に近づいていく過程が本当に面白い。
ただ驚かせるためのひねりではなく、そこまで読んできた人物の過去や感情まで一緒に効いてくるところがよかったです。
だから、真相に驚くだけではなく、「そういうことだったのか」と感情ごと持っていかれました。
辛くて泣く。でも、ちゃんと温かさも残る
読んでいて、胸が苦しくなる場面も多いです。
大切な人を失うこと。幸せがいつか壊れてしまうかもしれないという不安。誰かの言葉や行動によって、人生が変わってしまう理不尽さ。
そうした痛みがしっかり描かれているからこそ、感情移入するほどしんどくなります。
けれど、登場人物同士の関係性には温かさもありました。
特に友情の描き方がとてもよかったです。
熱すぎる友情というより、お互いを大切に思っていることが、言葉や行動の端々から伝わってくる関係性。
過去パートで、それぞれの視点から同じ出来事の見え方が変わる場面もあり、「そう思っていたんだ」とニヤニヤしてしまうところもありました。
泣いたり、怒ったり、笑ったり、またホロリとしたり。
読んでいる間、感情がかなり忙しかったです。
『白色光の影を浚う』はこんな人におすすめ
『白色光の影を浚う』は、こんな人におすすめです。
- 先の読めないミステリーが好きな人
- 人間ドラマの濃い作品が好きな人
- 喪失やしんどさの描写に心を動かされる人
- 登場人物同士の軽妙な会話が好きな人
- 『死んだら永遠に休めます』の文章や会話が好きだった人
逆に、軽く読める明るい青春ミステリーを求めている人や、温かさだけを期待している人には、少し重く感じるかもしれません。
喪失や痛みの描写がしっかりあるので読むタイミングは少し選ぶ作品ですが、重さの先に残る温かさまで含めて、読んでよかったと思える一冊でした。気になる方は、ぜひ手に取ってみてください。
作品の詳細は、公式特設サイトでも確認できます。
まとめ|不穏で苦しくて、でも温かいミステリー
遠坂八重『白色光の影を浚う』は、「感動のミステリー」という言葉だけでは収まりきらない作品でした。
不穏さがあり、先の読めなさがあり、喪失の痛みがある。
でも、ただ苦しいだけではなく、登場人物たちの関係性や言葉の温度に救われる作品でもありました。
『死んだら永遠に休めます』が好きだった人はもちろん、重さのある人間ドラマと先の読めないミステリーが好きな人にもおすすめです。

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